額縁の興味深さ
たしかに私は政治と太いつながりを持ってきたし、この国の大部分の人間も自分をそう見ているだろう」と。
日本では、自分の政治力を高めるため手段を選ばない男と批判する声もありますが、その見方はフェアではない。
私が民主党に献金するのは、その政治信条に共鳴したからで、それ以外の何ものでもない。
共和党は一部の金持ちとビッグ・ビジネスのための政党だが、民主党は社会正義を優先している。
その哲学に共鳴するから献金する。
決して私はオポチュニスト(日和見主義者)ではない。
K大統領への支持も同様だ。
彼は米国と世界のために大きな貢献をしてきたと信じている。
個人的に(数々のスキャンダルという)不幸な出来事があったとしてもだ。
後世の歴史は彼を偉大な大統領と扱ってくれるだろう。
もう一つ有名なのは、R弁護士が訴訟で手にする巨額報酬だ。
ボーモントで模型飛行機の店を経営するDと名乗る老人も、その一人だ。
この町に住んで五○年近くになるという。
昔はダウンタウンにも賑やかな商店街があったんだが、七○年代以降、郊外のショッピングモールに移ってしまった。
その代りに住み着いてきたのがR(弁護士)だ。
あいつらは世界でもっとも裕福な弁護士で、大企業から数十億ドルもの大金をせしめているんだ。
たしかに町中を歩いても、人通りや車の姿はあまり見かけない。
過去二○年余り、住民や商店が町の郊外に移転し、中心部が衰退する「ドーナツ現象」が進行したのだ。
その代り、やたら目立つのが法律事務所の看板だ。
それも目抜き通りに隣接するところまである。
その意味でボーモントは、米国訴訟社会の象徴とも言える。
日本で起きた批判の一つに、あなた方原告側弁護団がT訴訟で手に入れた巨額の報酬がる。
タバコ会社に対して起こした訴訟で、原告側弁護士の一人だった彼がとてつもない報酬を手にしたのは前述した通りだ。
高額所得の弁護士には、自家用飛行機で全米を飛び回る者もいる。
日本人の感覚で理解しがたいライフ・スタイルは、地元で反発を買っているのも事実だ。
少し皮肉な口調の質問だったかもしれない。
だが、R弁護士は一瞬黙ったものの、少しも動じず、「君は何の目的で毎日働いているのかね」と逆に質問してきた。
「仕事の達成感と生活の糧を得るためですが」と答える。
さらに「(深く領きながら)われわれも同じだ。
私はカネのために仕事をしているのではない。
自分の人生に意味を与え、少しでも世界を良くするために働いている。
Tへの訴訟もそうだ。
一人の女性の命をきっかけに何千人もの人間が救えたはずだから。
やるべき価値のある訴訟だったと思う」と言う。
私は「では、あの巨額報酬はあくまで正当な見返りだと言うわけですか」と聞き返す。
もっと大きな見返りがあるべきだった。
通常、われわれは和解金額の三五〜四○パーセントを報酬として受け取ってきた。
T訴訟の場合、その比率は七パーセント。
決して高い金額ではない。
しかし、一般日本人の感覚では、消費者の利益を言いながら、そんな報酬を手に入れること自体がけしからんと思えるわけです。
だから、カネ目当てに訴訟を乱発する男と叩かれる。
総額で一億四七○○万ドル、いくら何でも高すぎる。
正確に言えば、あの報酬は一億四四○○万ドルだ。
当初の予定より三○○万ドル値切ってきたことになる。
「すでに準備段階で数百万ドルの経費を費やしているのだ。
また大企業への訴訟では、相手も最高の弁護士と無尽蔵の資金を投入して防戦してくる。
きわめてハイ・リスクな事業だ。
私のような弁護士は、ある訴訟で十分な報酬を勝ち取り、次の案件に向かっていくのが唯一の選択なのだ」と述べる。
日本よりも正義が実現されている。
それにしても、大企業への彼の限りない敵偏心はいったいどこから来るのか。
社会正義の追求か、それとも個人的動機か。
単なるカネ儲けにしては、あまりに執念深い気がする。
率直に「あなたが弁護士稼業を始めて二六年、一貫してTやたばこ会社などビッグ・ビジネスを標的にしてきましたね。
この分野を選んだ理由は何ですか」と、尋ねてみた。
すると、「(ゆっくり考えるように)すでに六歳の時、私は将来弁護士になって、人々を助ける仕事がしたいと願っていた。
弁護士と言っても、皆を迫害する政府や大企業の道具ではない。
強大な存在から虐げられ、不当な扱いを受けている人々を助けたいと願ってきた。
資格を取得した当初は、製油所で怪我をした人の弁護を手がけていたが、経験を積むにつれ、より大きな訴訟も扱えるようになった」と答えた。
「六歳の時に何があったのですか」と聞くと、「私の父が勤務中に心臓病を患い、手術を必要とする事態となった。
ところが、父の雇用主はきわめて不当な扱いをしたのだ。
それを見た私は、『これは正義ではない』『こんなことが許されるはずがない』と怒った。
この経験が、私を弁護士という職業につかせ、自らを助けることができない人々を助ける仕事に導いたのだと思う」と言ったのだった。
弁護士をアンビュランス・チェイサー(救急車を追いかける男、交通事故などの裁判に介入して報酬を狙う意味)と呼ぶ人もいるが、あなたは違うというわけです。
まったく違う。
残念ながら、日本の読者は私に誤った印象を抱いているようだが、それは変えようがない。
彼らは日本の報道機関が流す情報に影響を受けている。
しかし、米国のメディアも、あなたのことを、『自ら被害者を探し出して訴訟を奨励する新しい人種』『起業家精神を備えた弁護士』と皮肉まじりに表現してますね。
それについては何とも言えない。
だが、私を起業家精神を備えた弁護士とするのは真実だ。
巨大企業相手に訴訟を起こすには、とてつもない資金が必要なのだ。
大きなリスクも伴う。
そして私は、信じることのために自腹で資金を投入する覚悟がある。
それを起業家精神と言うなら、それはそれで結構だ。
Tパソコン訴訟の後、日本では、米国の訴訟社会、司法リスクへの恐怖が一気に高まりました。
何しろ、客から一件の苦情も来ていないのに、一○○○億円ものカネをむしり取られたと思われていますから。
最後に、この点について、日本の読者に訴えたいことは何ですか。
日本と米国では法体系が異なるから一言では言えないが、日本人にぜひ分かってほしいのは、この国の司法制度はフェアなシステムだということだ。
国籍で偏見を受けることもない。
また陪審員を構成する市民は強いフェア・プレイの精神を身につけている。
しかし、もし、あなたが不正を行い、それを隠蔽し、責任を取ることを拒否したなら、陪審員はなすべきことをやるだけだ。
その意味で、この国では日本より正義が実現されていると言えるだろう。
ここまでR弁護士と話して分かったのは、彼が強烈な使命感を抱いてアグレッシブに突き進む、きわめてやり手の弁護士ということだ。
意地の悪い質問にも逃げることなく、正面から受け止め、おのれの立場を堂々と主張する。
語り口こそ柔らかいが、その姿勢はまさに米国のエリート弁護士である。
Tパソコン訴訟でも、彼は、コンピュータの専門家や日本語に堪能な弁護士などのタスクフォースを編成し、書類分析や法廷準備を進めてきた。
それはまるで、仮想敵国を想定して戦闘準備を行う軍隊と同じだ。
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